神経発達症に関する研究

神経発達症とは

 神経発達症とは、これまで発達障がいと言われてきた脳の障がいです。2013年に発表されたアメリカ精神医学会が発表したDSM-5(診断・統計マニュアル)にて、発達期にみつかる行動学的な神経系の(脳の)機能障がいをまとめてこのように言おうと定められたものです。

〇知的能力障がい                (ID)
〇コミュニケーション障がい(CD)
〇自閉スペクトラム症  (ASD)
〇注意欠如多動症   (AD・HD)
〇限局性学習症     (LD)
〇運動症        (MD)
〇チック症
〇その他 

などです。

 小児・思春期に多くの精神障がいが顕在化することから、病因レベルで何らかの共通点があるのかもしれませんが、今のところ、多くが未解明と言っても過言ではありません。

 遺伝的にせよ、環境要因にせよ、脳の発達のどこに異常を来しても、脳は正常に形作られません。従って、脳の正常の発生を研究すると共に、異常(遺伝的、環境要因にかかわらず)がどのようにおこるのかを研究するのが重要であると考えています。 

 なお、「障害」という表記については、障がい者団体等からの「『害』の字に否定的な意味があるので『障がい』に改めてほしい」という要望等を踏まえ、島根県においては平成22年4月1日から、「障害」が人や人の状態を表す場合には「障がい」とひらがな表記にすることを原則としていることから、障がいと本ページでも記載いたします。

 

16p13.11微小重複症とは

 遺伝子のコピー数変異の1つ、遺伝子重複とは、ダウン症(21トリソミー)のような染色体レベルの大きな重複から、シャルコー・マリー・トゥース病のPMP22遺伝子のような1遺伝子単位の重複まで、様々なものがあります。数メガ(M)ベースの遺伝子の重複を微小重複症と呼びます(右図(PC)/上図(モバイル端末))。

16p13.11 領域の重複と関与があると報告があるのが、

  • AD/HD  (Williams et al 2010)
  • 統合失調症 (Ikeda et al 2010, Ingason et al 2011)
  • ASD  (Ullmann et al 2007  )
  • ID (Mefford et al 2008)
  • 全般性発達遅延   (Cooper et al 2011) 
    です。
    最近着目されはじめたところなので今後も報告が増えてくると考えられます。

 特に、欠失(loss) が起こっても、重複 (gain) が起こっても脳発達に異常を来す可能性があることから、neurocognitive disorder susceptibility locusとDECIPHERのデータベースでは明記されています。

 

 まず、我々は、Sanger InstituteのDECIPHERやISCA (International Standards for Cytogenomic Arrays) といった患者データベースや、あるいは過去の論文から可能な限り多くの患者データを抽出しました。重複している領域を示すデータ(右図/上図青の横線)を用いて、16p13.11微小重複症のコア領域を同定しました。最も重要な遺伝子がその中に含まれ、その遺伝子の重複が脳発生の異常をひきおこすと考えられた領域です(縦の2本の黒棒で挟まれた領域です)。この中にある遺伝子7つを、マウスの脳内にて、脳発生異常に着目して解析を行いました。(右図/上図

 
 
 
 
 遺伝子の過剰があったときに(あるいは、減少時もおこりうる)表現型をきたす遺伝子が候補遺伝子であると考えました。in utero electroporation法を胎児の脳内で、遺伝子を局所的に過剰にするために有効に活用しました(右図/上図。ただ、この候補遺伝子の同定は現在も不完全であると考えています。
 
 
 
 
 
 
 1つの原因となる遺伝子を同定することはできませんでしたが、Nde1という、これまでも脳発生に重要な役割を果たすと考えられている遺伝子に加えて、miR-484, Marf1を候補遺伝子と考えました。それらを含む、BAC-Tg(トランスジェニック)マウスを作製し、行動学的解析を行いました。不思議なことに、メスのみで多動症や、体重減少が認められましたが、なぜこれが起こるのかは未だに解明できておりません(右図/上図
 
 
 
 
 

16p13.11領域内の発達期に発現するNde1, miR-484, Marf1が、過剰に存在すると、神経新生の異常を呈したことから、この3つの遺伝子に着目して研究を行っています(右図/上図

  ○Zhang S, Fujitani M Scientific Reports 2014

  ○Fujitani M  Molecular Psychiatry 2017

  ○Kanemitsu Y, Fujitani M Scientific Reports 2017 

 

 

現在の研究

 RNA結合タンパク質であるMARF1はRNase活性を持ったユニークなタンパク質です。RNA結合タンパク質による翻訳後修飾という分子生物学的な制御機構についても着目しています。

 マウスを用いた研究は、行動学的解析が個体レベルでできることが最大のアドバンテージです。一方、病態研究を行う上で必要と考えられるため、我々は、ヒトの脳組織に研究領域を拡げていきたいと考えております。

 現在は、疾患特異的iPS細胞を作製して行う研究を、京都大学CiRAと、愛知県医療療育総合センター中央病院(旧愛知県心身障害者コロニー中央病院)との共同研究として施行させて頂いております。また、順天堂大学より、iPS細胞の神経分化についての技術移転を受けています。

 また、正常なES細胞をゲノム編集をすることによって病態モデル化することにも挑戦したいと考えております。

 これら、神経発達症、脳発生に関する興味がある方も是非こちらの「連絡先」にご連絡下さい。

 研究手法としては、マウスの脳発生を解析する方法として、脳内への遺伝子導入法( in utero electroporation法)神経細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞(胎児期、成体期)の初代培養法、CRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集の手法も含む、通常の分子生物学的研究手法、免疫染色法、in situ hybridization法、ゴルジ染色法、マウスの遺伝子改変などを用いて研究を行います。また、今後は、共同研究を通じて、マウスの行動学的解析を行います。
 また、ヒトの細胞として、ヒトの神経幹細胞の培養細胞株を用い、ヒトiPS細胞の培養法、神経分化法など多彩な研究手法を確立しつつあります。RNA-seq, RIP assay, 免疫沈降法といった、分子生物学的な解析手法も、共同研究を行いながら、確立しつつあります。

 また、島根大学の共同研究施設である、島根大学研究機構総合科学研究支援センター内の共焦点レーザー顕微鏡などを用いて、研究を行います。

 

15q11-13微小重複症に関する研究

 16p13.11微小重複症の研究から発展して、現在、15q11-13領域の微小重複症の研究に取り組もうとしております。現在、患者さんの疾患特異的iPS細胞を作製中であります。

 この領域は、自閉症の発症に重要な遺伝子座であるため、これまで、様々な研究が行われてきました。16p13.11微小重複症と同様の手法を用いて、我々も新たに研究に参画できればと考えています。